ネックのメイプル材の木目から、サウンドキャラクターを読み解く。
いつもご愛顧いただき誠にありがとうございます。イシバシ楽器 名古屋栄店 店長 湊 です。
『ストラトを嗜む。-使用木材の変遷から見るサウンドバリエーション』と題して、前回は年代ごとの使用木材の変遷とサウンドキャラクターについてご案内いたしました。
大まかに自分の欲しいサウンドと、それにマッチする木材仕様の方向性が定まれば、後は個体選定になってきます。
あなたはストラトキャスターを選ぶ際、どこを見て選定しますか?

ストラトキャスターのみならずFender社のギターはカラーバリエーションも豊富で、好みのカラーで選ぶという選択肢もあります。
でも同一カラーの個体が複数あったらどうでしょう。
木工品という性格上、どうしても個体による細かなサウンドの違いが出てきます。
私はストラトキャスターを選定する際、必ずネックのメイプル材の木目を見てみることにしています。
そこから、その個体のサウンドキャラクターが読み取れるからです。ストラトキャスターは『ネックを付け替えると音が変わる』と言われるほど、ネックがサウンドに及ぼす影響が大きいモデルです。
そこで今回はストラトキャスターのネック材、メイプルの木目の読み方をご案内させていただきます。
木材の木取りの種類は3種類ある
レスポールに関しての記事『レスポールを嗜む。トップ材メイプルの魔性。』 にてご案内させていただいたメイプル材ですが、見方は同じです。
縦に走っている線を『木目(もくめ)』といいます。これはメイプル材の年輪です。濃い線(冬目)と薄い部分(春目、夏目)で一年と言われています。

木目が切断面に対し垂直に入っているものをクオーターソーン(柾目)、斜めに入っているものをリフトソーン(追柾目)、平行に入っているものをフラットソーン(板目)と呼びます。
クオーターソーン(柾目)は剛性が高く、フラットソーン(板目)は柔軟性があり、リフトソーン(追柾目)はその両方の特性を持ち合わせています。
それぞれ希少性に違いはありますが、トーンにおいての優劣はありません。
揺れるような模様である『杢(もく)』が出ているものもありますが、非常に稀です。ここではいわゆる3種類の木取りを木目から読み解いていきます。
■クオーターソーン(柾目)の読み方
クオーターソーン(柾目)ネック裏面の木目を読む

こちらはクオーターソーン(柾目)で木取りされたネックです。ネックに走る木目が均等な幅で走っています。
冬目同士の間隔も狭くなかなかに詰まった木目ですね。この個体はクオーターソーン(柾目)のお手本のような個体です。もう少し寄って見てみましょう。

ネックの中央に独特の模様が出ているのがお分かりいただけるでしょうか。
これは『リボン杢』と呼ばれる模様で、この部分については木目が切削加工面と垂直に入っている場合に出てくるものです。
リボン杢がまっすぐ中央に走っていますので、このネックの木目はネック成形に対して方向性にズレがない、ということがわかります。
ものによってはこのリボン杢が斜めに入っているものもありますが、それはネック成形に対して木目が方向性がズレているか、途中でねじれていたり曲がっていると考えられます。
ワンピースメイプルネックは指板面も重要

この個体は1955年のリイシューモデルですので、ワンピースのメイプルネックです。指板Rが9.5インチと比較的フラットな指板ですので、指板面一面にリボン杢が出ています。
ネック裏面は丸く成形されていますので、指板面に対して垂直に入っていてもネック裏面には中央部分にしかリボン杢は出ません。ヘッドも見てみましょう。
ヘッド裏のリボン杢を確認

こちらも一面にリボン杢が出ています。素晴らしいクオーターソーンであると言えます。

ヘッドの上面から見てみると、木目の入り方が成形に対して垂直に入り、非常に整っているのが一層良くわかります。
リボン杢はあくまで『切削加工面に対して垂直に』木目が入っていないと出ませんので、木材内部で木目が曲がっていたり、ねじれがあると、リボン杢も部分的なものとなります。
クオーターソーン(柾目)ネックのサウンドキャラクター
木目は冬目が硬く、夏目が柔らかいという特徴がありますが、硬い冬目が規則正しく並んでいること、木目が荷重が掛かる方向に対して垂直に入っていることから剛性が高く、非常にアタックレスポンスが早いのが特徴です。
ネックの振動も細かくなり繊細な表現力がありますが、強いアタックも受け止めてくれるネックです。
通常の木取りでは1本のメイプルから取れる量が最も少ないのがこのクオーターソーン(柾目)で、Fender Custom Shop のリミテッドモデルや、最高峰のマスタービルダーシリーズなどの個体でしかほとんど見かけることはありません。
■フラットソーン(板目)の読み方
フラットソーン(板目)ネック裏の木目を読む

こちらはフラットソーン(板目)で取られたネックです。丸い木目が放射状に広がっているのが特徴です。
丸い放射状の木目が複数出ているネックもありますが、画像のようにひとつが波紋の様にきれいに広がっている木目の方がネックコンディションの変化にクセが少ない印象です。
木目の間隔についても個性が出るポイントです。硬い冬目と柔らかい夏目の分布を想像しながら、ネックのサウンドキャラクターなどを探っていきます。

指板面に対して平行に木目が走ってれば、ネックサイド両側にほぼ同程度のリボン杢が出ます。向かって左右均等にリボン杢が出ていると、板目としては良い木取りをされていると判断出来ます。
フラットソーン(板目)ネックのサウンドキャラクター
フラットソーンは柔軟性がある木取りになりますので、しなるように少し大きく振動し、粘りのある中音域が魅力です。
アタックレスポンスは少しタメがあり、ピックが喰いつくようなアタックフィーリングと独特のグルーヴ感が得られます。
1本のメイプルから取れる量が最も多いのがフラットソーン(板目)となりますので、おそらく一番よく見かける木目です。
板目同士の個体では、木目の間隔やネックサイドのリボン杢などを見ながら好みを絞っていきます。
■リフトソーン(追柾目)の木目の読み方

リフトソーン(追柾目)の木目をネック裏から見てみましょう。ここまでご覧いただいた方ならお分かりいただけるでしょう。
柾目のリボン杢がちょうど3弦裏辺りに出ていますね。5~6弦裏辺りは板目になっています。追い柾目(リフトソーン)はこの様に柾目と板目の両方の特徴が木目に現れます。

この様に少し寄って見てみますと、より分かりやすいかと思います。この個体は高音弦側に柾目のリボン杢が見られますが、この逆も存在します。
一般的にリフトソーン(追柾目)は剛性と柔軟性がバランスよく得られると言われ、こちらも Custom Shop のグレードでは見ることが出来ますが、USAレギュラーラインのグレードではなかなか見られません。

ヘッドから見ると、このように指板面に対して斜めに木目が入っているのが分かります。ここの角度によって柾目の特徴が濃い部分と板目の特徴が濃い部分の比率が変わって来ます。
リフトソーン(追柾目)ネックのサウンドキャラクター
この柾目と板目の特徴を備えたリフトソーン(追柾目)は、目に見えてわかる木目の特徴通り、柾目部分では非常にレスポンスが早く、板目部分では粘りのあるサウンドが期待出来ます。
6弦側が柾目、1弦側が板目の場合はタイトなローエンドと粘りのあるリードトーンが期待出来ます。
6弦側が板目、1弦側が柾目の場合は粘りのあるリフワークと立ち上がりの良いカッティングによさそうですよね。
後はヘッド断面で見られる木目の角度や柾目と板目の出方を見て、今までご紹介した要素を包括的に見ていきます。
私が長年愛用しておりますストラトキャスターはこのリフトソーン(追柾目)で、5~4弦裏にリボン杢が出ており、その鳴り方が私のプレイスタイルを作ったと言っても過言ではありません。
木目を読み、音を思い、心に問う。
いかがでしたでしょうか。この様にネックのメイプル材の木目を読んでいくことで、サウンドキャラクターをある程度予測することが出来ます。
あなたが求めるサウンドはどの木取りがベストマッチでしょうか。
木目を読み、自分自身の求めるサウンドを心に問うことで、きっとあなたを導き、一生の相棒となるストラトキャスターとの出会いが叶うはずです。
今回ご案内したことが、あなたの理想のトーンへの道標の一つとなりましたら幸いです。
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最後に、サンプルとしてご案内した個体をご紹介させていただきます。
■Fender Custom Shop / Limited 1955 Stratocaster Relic Dirty White Blonde 2019(Used)

ボディはご覧頂いた通り見事なグレインのアッシュ。厳選されたカスタムショップグレードのセンター2pcs仕様。
ネックも同様に柾目の素晴らしい木取りをみせており、過去のカスタムショップモデルにはない仕上がり。指板面は9.5インチ、フレットサイズは6105と、ここ最近ではお馴染みの外見とは裏腹のモダンプレイフィールを実現しております。
ネックシェイプは『1954 U』シェイプとしており、全体的に肉付きのよいネックシェイプです。
■Fender USA / Jimi Hendrix Tribute Stratocaster 1997 Olympic White (Used)

1997年製。わずか2年間だけ生産されたレアアイテム、Jimi Hendrix Tribute Stratocaster。
ヘッドロゴまで反転しており、これを右利きで構えた上で鏡に映るとジミヘンになれるというギターです。
この手の機種にありがちな左利き用への改造もありません。生産期間も短く市場の流通も少ない逸品。
■Fender Custom Shop / 1963 Stratocaster Journeyman Relic Faded 3Tone Sunburst 2015

ボディは厳選されたアルダーボディのセンター2pcs仕様。ボディにはジグ穴がしっかりと確認でき、ネックとボディのシーケンスナンバーも一致しております。
仕上げはレリック具合を比較的抑えたジャーニーマンレリック仕様。カラーリングは外周部分を少し濃いめのブラウンに仕上げた『Faded 3Tone Sunburst』。コントロールキャビティにその名前の記入があります。
ネックはメイプルで6弦側は板目ながらも基本目が詰まった追い柾目の木取りとなっています。